2011 |
11,27 |
生まれる年を間違えただけの双子だと、昔からよくからかわれたものだった。
とは言っても瓜二つなのは顔だけで、あとはまるきり正反対。
整列すれば最前列の歩と、最後尾の駈。
はしゃぎ回ってしょっちゅう傷だらけの駈と、運動神経こそいいものの、物静かで怪我らしい怪我もしたことのない歩。
感情表現の豊かな駈は、そのくせ臆病者。
歩はといえば、親戚までもに「何を考えているのか分からない」と言われる娘だけれど、気は強かった。
その正反対ぶりがよほどに面白かったのだろう。
「時間差双子」とはよく言ったものだ。
…失った今は、余計にそう思う。
本当に悲しいとき、人は涙も出ないものだと何かで読んだ気がするが、ひたすら泣いた。
最後の方は、どれだけ泣けば枯れるものか挑むような思いだった。
日常のありとあらゆるものに姉を思い出してはほとんど反射的に涙が零れて、感傷で済むようになるまで、一年かかった。
その次の半年は、空虚だった。
あれは、やはり冬の日だった。姉が亡くなるふた月か、三月前の話だ。
夜中のことで、散歩がてら買ってきた肉まんを半分にして姉の部屋で食べた。
それは二人の大好物で――性格は正反対のくせに、好みは吃驚するほど似ていた――、「こんな時間から食べたら太る」なんて口にもしない歩の潔さが、駈は好きだったように思う。
丁度クリスマスが近くて、そんな話からだったかお互いに好きな人はいるか、とか、そういう話になった。
歩も駈もどちらかというと恥ずかしがりな方で、まずそんな話は家族にしなかったし、相手がいても敢えて口にはしなかった。
必然的に相談相手が互いなのは昔からの話で、眠れない夜は時折、そういう話題になることもあった。
ここでも二人は正反対で、押せない駈に対し、歩は案外押しが強い。何の進展の報告もできない駈に、歩はおずおずと携帯を差し出した。
こちらを見て満面の笑みを浮かべる、一人の男性。
聞かなくとも分かった。以前、歩が気になると話していた相手だ。
「優しそうな人だね。よかったね」
微かに細まった歩の目が、確かに喜んでいることが駈にはよく分かる。
食べかけの自分の肉まんをまた半分にして、片割れを歩に渡した。それから温かいジャスミン茶を飲んで、彼に渡すクリスマスプレゼントを一緒に考えた。
だから、歩の一周忌に現れたその人が誰なのか、駈には一目でわかった。
一瞬、自分を見て驚いたように目を見開き、それから目をそらして、軽い会釈を寄越した。
自分の顔なんて見たくないだろうと思う。
歩そっくりの、この顔。
思いきったような感傷が、彼にも漂っている、と駈は思った。
見たくないだろう――今は。
でもいつかは、会いたくてたまらなくなるのかもしれない。
そういうときが訪れたなら、いくらでも会おうと思った。
それが正しいことなのかは分からない。けど、まだ忘れてほしくはない。
それは自分の我儘だ。
*
自分のことを知って欲しいと、
自分のことを話したいと、
そう思えたことは随分な進歩だと思う。
歩には何も言わなくても、分かって貰えている気がした。
自分も、分かる部分があると思っていた。
すぐ傍にそんな相手がいて、どこかでそれでいいと思っていた。
でも多分、普通は違うのだ。
途方もない時間をかけて、沢山話をして、時には衝突しながら、
少しずつ互いを理解していく。
だからこそかけがえがない。
「…『星の王子さま』だなぁ」
呟いて、苦笑する。
そんな途方のないことは、自分には出来ないような気がしていた。
また失ったときの空虚をつい思い、躊躇した。
けど。
まずはこれから。
お互いの好きな食べ物だって知らない、自分たちだから。
今は何故か、途方のなさよりもわくわくする気持ちの方が強くて。
ふと、思う。
彼もまた、そんな途方のない時間をかけてもいいと思える相手と出会えるだろうか。
きっと歩は自分とは違うから、さっさとかけがえのない時間というものに気付いて、せっせとその時間を重ねていたに違いない。
もう一度その苦労と、充実感を味わう覚悟が彼に出来るのなら。
もう二度と、会わずに済めばいいと思った。
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黒燐蟲使い×牙道忍者
身長メモ:187.2cm(081213現在)
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