«名前のこと»

花と話してて、思い出したことがあった。

俺が生まれる前にはもう亡くなってたじいちゃん。
孫の名前を考えるのが趣味だったらしくて、生前たくさんの名前をノートに書き記してたんだって。
その中から、父さんと母さんが話し合って決めてくれたのが、俺の「駈」って名前。
だから俺の名前は、両親が付けてくれたとも言えるし、じいちゃんが付けてくれたとも言える。
俺は三人からもらったって思ってるけど。

大島で漁師をしていたじいちゃん。
写真で見るじいちゃんは真っ黒に日焼けして、皺だらけで、寡黙な海の男って感じがして、俺はちっとも父さんとの接点を見つけられずにいたけど。
唄者でもあって、ばあちゃんが言ってたけど、風が山の上を駈けて海に雨を運んでくる、その束の間の景色と唄うことが大好きな人だったんだって。


残念ながら、漁の才能も歌の才能もこれっぽっちも受け継げなかった俺だけど、風とか空とか雲とか、一瞬一瞬変わっていくものを留めておく心は引き継いでいけてればなって思う。

俺の名前を思いついたとき、じいちゃんの見ていた景色はどんなものだったんだろう。
「駈」って字を見つけたとき、父さんは、じいちゃんのいた景色を思い出したのかな。


そんなことを考えたんだよ。